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第七話 予感

last update Última actualización: 2025-11-04 08:00:59

岬に書類を渡していくと、パッと資料の中に書かれている名前に気づいていく。そこには麻美の父、晴明の名前が書かれていた。岬に渡そうとした所で気付く事が出来た。この資料だけはどうしても確認した方がいい、直感がそう語ってくる。

「どうしたの?」

「この資料、社長に頼まれていたものが混ざっていました」

「次からは気をつけようね」

「はい」

深くは踏み込んでこないようで、内心ホッとしている彼女がいる。どうにか誤魔化せた麻美は、そそくさと自分の机の引き出しにしまい込んだ。念の為に鍵をかけると、彼女以外が触る事はないだろう。

「じゃあ、この書類、社長室に置いてくるから後はよろしくね」

「はい」

元気な返事が岬の背中に注がれていく。彼女は振り返る事もなく、スタスタと歩いていった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

テレビ局での会議が始まろうとしている時に、遅れて入ってきたのはある人物だった。終夜は一瞬不機嫌な表情を現していく。彼の視線に気づいた人物は、終夜の方を確認するように視線を向けた。一瞬を逃す事のない彼は、表面化していた感情を奥深くに戻していった。

人物の視線が終夜に向けられた時には、いつもの微笑みが溢れていた。

「終夜君も来ていたのか」

「お久しぶりです、蘇枋《すおう》先生」

「今日はどういう立場でここにいるのかね?」

「……いつも通りですよ」

蘇枋先生と終夜が呼んでいる人物は、政治家の蘇枋シンヤだった。基本、表に出る事が好きな人ではないのだが、今回は何か訳ありのように思える。個人的に聞きたい気持ちがある終夜だったが、下手に踏み込んでしまうと引き返す事は難しくなる。

アンバランスな中でも自分の求められている役割を演じ、それ以上の欲は出さない。そうする事で自分の表と裏、プライベートを守れるのだから、当然の事だろう。

会議室に閉じ込められた終夜は番組構造とどういうふうに流れを作るかを聞きながら、時間を持て余していく。

事業に対してなら真摯に向き合う事があるが、メディアが関わるとまた違ってくる。この閉鎖された時間が終わるのを待つ事しか出来ない。そんな自分に対して反吐が出る。

作られた表面を悟られないように固定し、脳裏では帰宅した時の事を考えていた。そこに待っているのは麻美だ。彼の役割や立場に対して本当の意味の理解者になりうる存在を手にした事は彼にとっては大きい。麻美の存在が、意見が、笑顔が、無邪気さが、終夜の心に温もりを与えてくれる、そんな予感を感じながら、待ちわびている彼がいた。

麻美が見つけてしまった書類とこの瞬間が繋がっているなんて思うはずもない。

別々の場所で関わりを作ってしまった物事は、これから起こる試練を乗り越えられるかどうかを試す為の試験の一つだった。遠くくにいるはずなのに、二人は空間を超え、視線を交差していく。

「……会議は以上です。参加していただきありがとうございました」

締めくくられていく言葉とは裏腹に薄気味悪い笑顔を零した蘇枋《すおう》がいた。

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